大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(行コ)59号 判決

控訴人(原告) 日昌物産株式会社

被控訴人(被告) 日本橋税務署長

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中主文第一項を除き取消す。

2  被控訴人が昭和四八年一月二五日付でした控訴人の昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分一〇、九五〇、〇〇〇円、昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分七、二〇〇、九〇〇円、昭和四六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分一九、〇二二、一〇〇円の各重加算税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示(ただし、本件第二処分に関する部分を除く。)及び当審証拠目録記載のとおりである。

ただし、次のとおり付加訂正する。

一  原判決七枚目裏四行目の次に、次のとおり付加する。

「(二)仮に、倉田において本件修正申告をすることを決意した日時が昭和四七年三月二四日であると認められないとしても、倉田の命をうけた岡野は、遅くとも同年四月一日には白鳥税理士を訪ね、資料を持参して修正申告を依頼しているのであるから、控訴人は同日には確定的に修正申告することを決意していたというべきである。

従つて、本件修正申告書の提出は、本件調査とは何らの因果関係もなく決意されたものであるから、このような場合にも国税通則法(以下「法」という。)六五条三項は適用されるべきである。」

二  同一一枚目裏一行目の「提出する」を「提出したのではない」に改める。

三  同一五枚目表四行目の「原告は」を削る。

四  同九行目の「利益から定期預金を設ける」を「利益を預金する」に改める。

五  同一五枚目裏一行目の「債権をも購入していた」を「債券を購入していた際にも用いていた」に改める。

理由

一  当裁判所は控訴人の本訴請求(控訴部分)は棄却すべきものと判断する。その理由は原判決の理由(ただし、一、三項を除く。)と同一であるからこれを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

1  原判決二六枚目裏五行目の「簿外商品取引に係る取引」を「簿外商品取引を含むいわゆる定期取引」に改める。

2  同二七枚目表五行目の「乙第四号証」の次に「、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、同第三号証の一ないし四」を、同行目の「証人山田晴弘」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加え、同五~六行目の「倉田謙二(第一回)」を「倉田謙二(原審第一回)、同小林隆(原審及び当審)」に、同六行目の「岡野[金甲]三(第一回)」を「岡野[金甲]三(原審第一回)」にそれぞれ改め、同七行目の「倉田」の次に「、同小林隆」を加える。

3  同二七枚目裏八行目の「山田は」の次に「右〈2〉〈3〉についてはコピーを取り証拠保全したが、〈1〉については」を加える。

4  同二八枚目表一〇行目の「翌日から」の前に「同人の祖母が危篤状態となり、次いで死亡したことにより、」を加える。

5  同二八枚目裏三行目の「なされなかつた」の次に「(なお、本件調査は前記東京銀行八重洲通支店における控訴人の匿名預金の発覚とは全く無関係に行われた。)」を加える。

6  同二九枚目表八行目の「印鑑等が」を「印鑑等の中には」に、同九行目の「名義のもので」を「名義のものも」に、同末行目の「同倉田の」を「同倉田、同小林の前記」にそれぞれ改める。

7  同二九枚目裏一行目の「(いずれも第一回)」を削り、同五行目の「行つていると推測した」を「行つていると想定される端緒を把握したことを確信した」に、同六行目の「推測」を「確信」にそれぞれ改める。

8  同三一枚目表三行目の「採用せず、」の次に「原本の存在成立とも争いのない甲第五五、五六号証、成立に争いのない同第五七号証の一、控訴人の事務室の写真であることに争いのない同第五七号証の二ないし七も右認定を左右するに足りないし、」を加える。

9  同三二枚目裏四行目の「争いのない」の次に「甲第五六、五七号証の一ないし七(前掲)、」を加え、同五~六行目の「弁論の全趣旨により成立を認める」を「その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき」に改める。

10  同三三枚目表二行目の「保留利益の額」の次に「(約四億圓)」を、同行目の「翌日」の次に「夕方」を、同四行目の「資料」の次に「(計算用紙二枚位)」をそれぞれ加える。

11  同三三枚目裏二行目の「の後」を「のため」と訂正する。

12  同三四枚目表九行目の「午後一時の」の次に「原審」を、同三五枚目裏二行目の「証言」の次に「(原審及び当審)」を加える。

13  同四〇枚目表二行目の「べきである」の次に「(なお、右例外的措置が、自ら進んで確定申告をなし、以て適正な納税義務を果している者との間に公平が保持されるべきであるとの課税政策上の配慮に由来することも論をまたない。)」を加える。

14  同四〇枚目表四行目の「というのは、」の次に、次を加える。

「被控訴人が主張するように、税務職員が納税者の申告に係る国税について調査に着手しさえすれば、その調査の進展段階を問うことなく、調査着手後になされた修正申告は、たとえ調査着手以前に修正申告を決意していた場合であつても、すべて更正を予知してなされたものでないとはいえないと解するのは適切な解釈とはいえない。文理上、右条項は調査着手以前に申告書が提出された場合を問題とするものではなく、調査着手後に提出された場合にその適用の有無を問題としているものであることは明白である。従つて、調査着手後の提出はすべて予知してされたものであると解するのは、明らかに右の文理に反することになる。又、実際問題としても、被控訴人のような解釈をとると、調査着手以前に修正申告を決意していた納税者も、たまたま申告書提出前に調査の着手があつたときは、折角その後に申告書を提出してみても重加算税を課せられてしまうのであるから、むしろ申告書を提出することをやめ、調査の結果を見守り、発覚した分についてのみ重加算税を支払うにとどめ、未発覚分があるときはその分の申告をやめてしまうであろうことが容易に考えられる。従つて、右条項の解釈としては、」

15  同四〇枚目裏三行目の「と解すべきである。」の次に、次を加える。

「そこで、例外的には、調査の右の段階後に修正申告書が提出された場合でも、申告の決意は右の段階以前になされていたということはあり得る訳であるが、立証の問題としては、経験則上、申告書の提出が調査の右の段階後になされたときは、申告の決意は右の段階後になされたものと事実上推定すべきであり、この推定を破るためには、例えば、調査の着手後でかつ調査が右の段階に至る前に、申告の決意とその内容を税務職員に進んで開示する等のことが必要である。本件では右のような開示がなされなかつたことは既に判示したとおりである。こうして一方において、このような決意の開示によつて従前の不申告を翻意した納税者に対しては重加算税免除の利益を与え、他方において、国家に対してはそれ以上の調査の不要という利益を与えることができるのである。ところで、第三番目の見解として、」

16  同四一枚目表一行目の「反することとなる。」の次に、次を加える。

「実際問題として、納税者側の脱漏所得に対する隠ぺい・仮装等が巧妙、悪質であればある程、税務職員において所得脱漏の事実を把握することが困難となる訳であるから、調査進展の段階として控訴人主張の段階まで調査が進むことを必要とするならば、悪質な納税者ほど調査を受けてもこれに協力しないで何とか所得脱漏の事実を隠ぺいしてあわよくば追加税額と重加算税の双方を免かれようとし、いよいよ右事実を発見されそうになつたとき、その寸前に申告をして重加算税だけは免かれてしまうということになり、その不当なことは明らかである。」

17  同四一枚目裏二行目の「調査以前に」の次に、「本件修正申告の提出につき」を加える。

18  同四一枚目裏五行目の「されたもの」の次に、「でないとは到底いうことができず、むしろ、明かに、「予知してされたもの」である。」を加える。

二  以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。

訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条八九条適用。

(裁判官 武藤春光 菅本宣太郎 山下薫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例